この春、おかげさまで、12周年を迎えることができました。
お客様のみなさま、美味しい食材をつくってくださる生産者の方々、
お世話になっているみなさまに、
心より御礼申し上げます。
日頃、看板メニューのひとつとなっております「山羊(ヤギ)のチーズ」
を、群馬の赤城山の山麓標高500メートルの場所でつくってくださっている
熊井淳一さん、節子さんご夫妻とのおつきあいも、10年が経ちました。
毎年、春になると、山羊たちの出産のようすとご報告をお手紙でいただきます。
今年も、3頭の母山羊さんが熊井さんの献身介助によって無事に出産ができた模様を
臨場感あふれる温かい文章で書かれたお手紙が届き、読み終わったときには、
熊井さんと山羊さんたちのもとへ会いに行きたい気持ちでいっぱいになり、
長いおつきあいへの感謝の気持ちを携えて行ってまいりました。
熊井さんはもう80歳を超えられていますが、本業のブロンズの彫刻家のお仕事と並行して、にわとりや山羊さんたちのお世話をされて、秀逸なチーズを日々研究を重ねながら作られており、
チーズが美味しいこと以上に、そのお仕事への熱意にふれるたびに、
尊敬の気持ちと、励ましをいただける、わたしたちにとってとても大事な存在です。
わたしはおそらく、熊井さんの次にたくさんこの美味しいチーズを日々いただいていて、
身体の半分は、山羊のチーズでできているかもしれないとさえ思っています。
玄関先には大きな桜の樹が満開。
出没するクマ除けのためのラジオが辺りに響きわたっていました。
すぐにでも山羊小屋へ直行したい気持ちでしたが、お家の中へお招きいただき、
まるで植物園のようなアトリエの横の居間で、桜の陽の光を感じながら、
熊井さんが節子さんとかけあいながらテンポよく話してくださる日々の楽しいエピソードの数々は、木リスのクウちゃんと暮らした数年間のはなしにはじまり.......
そのクウちゃんがじつに賢くて、テレビをみながらお食事されていた熊井さんが最後のブロッコリーを食べようとしたらお皿は空で、あれ、食べちゃったかな、ぼけちゃったかな、と思って見上げたらブロッコリーがカーテンレールの上に乗っていたんだよ!.....
クウちゃんはバナナが大好きで、バナナ1本丸ごとを、下の歯で刺して、えっちらおっちらと、巣まで運ぼうとしていた様子は傑作でねえ!.......
アトリエで塑像の作業をされていた日にちょっと休憩に台所でコーヒーを飲み、またアトリエへ戻って作業を再開しようとしたら、置いたはずの木ヘラがなく、あれどこへ置いたかな、奥さんへ言うとボケてるといわれてしまうから気づかれないようにあちこち必死に探したけれどもみつけられず、困ったなあと視線を上げたら、むこうの高い場所にあるクウちゃんの巣に、その木ヘラが半分おさまりきらずに刺さっていたんだよ!.....
クウちゃんは奥さんのエプロンの前掛けの中に入って揺られるのが大好きで、そこへ飛び込むクウちゃんが中でどんなふうにしているか、そおっとのぞいてみたら、すっかり爆睡していて、起きないんだよ......
そして、2頭の大型犬とクウちゃんとのやりとりのほほえましい出来事の話。(それはまるで外国の小説を読み聞かせていただいているようなものでした)
そこから間髪入れず話題は山羊さんへと移り、山羊の出産の、それは山羊のお産は楽だとよく言われているけれど、決してそんなことはなく、幾度となく経験された難産のお話、母山羊の中から、仔山羊が小さな鼻先と前足のひづめを三角形にそろえて出てくるときは大丈夫だけれど、前足が後ろにそっくり返ってしまっているときには、熊井さんが全力で引っ張りだしてやらないと大変なことになることや、今回は、1頭しか生まないと思っていた母山羊さんのお腹からあとからあとから小さな鼻先とひづめがでてきて、3頭産んで驚いたこと、仔山羊の生まれたてはお腹がぺったんこで、初乳をしっかり飲ませることが大事で、それさえ飲めれば数時間後には立ち上がれてどんなに寒くても元気に生きていけることなど、お手紙より詳しい実況解説、興奮に満ちた尽きないお話の連続はほんの一瞬たりとも途切れることがなく.............
熊井さんはすばらしい彫刻家で、獣医いらずの山羊の神様であるだけでなく、蜂を飼育しハチミツも採取し、きのこも山羊小屋のそばで菌床栽培し、野菜はもとより美味しいコンニャクまで自家製、ヤマメは燻製にし、あたりに出没するイノシシもご自身で解体して美味しく調理なさるという日本人離れした自給自足の達人ですから、一年に一度お会いするだけでは時間が足りないです、
窓の外の陽はだんだん夕刻にかたむき陰りはじめ、
このまま途切れない楽しいお話を聞き続けていたいけれど、
陽のあるうちに山羊小屋へ行きたい、
という望みに心が葛藤、、、
「くっ、くまいさん、仔山羊さんたち、見せていただきたいっ!」
という一言をやっと強引に挟めたときには、2時間近くが経っておりました。
愛しい熊井さんと、山羊さんたち。
いつも美味しいチーズをありがとうございます。